この患者様は産婦人科医の74歳の女性(A様)で、以前、当院の治療で効果を示した患者様の妹様です。
お母様(A様のお姉様)の経過を診ていた医師の息子様が、姉妹ならば遺伝的に近く効果が期待できると考え、新免疫療法を勧められました。
平成19年8月の乳癌検診で左乳癌が指摘され、この術前検査にて右肺癌が発見されました。
大学病院にて胸部CT、気管支ファイバー検査にて右肺腺癌(T4N2M1)StageⅣ(ステージ4)、左乳癌(T1N0Mx)StageⅠ(ステージ1)と診断され、同年10月CBDCA(カルボメルク)300mg/日day1とPAC(パクリタキセル)87mg/日、day1,8,15を2クール受けられました。
近日中に再度入院して上記抗癌剤を再度行う予定でしたが、肺腺癌のStageⅣであることから、新免疫療法を併用したいとのことで、平成20年1月、74歳の時、当院を受診されました。
新免疫療法開始2か月前のCT検査では、肺腺癌の主病変S1bのスライス位置A(以下主病変A)が3.2×2.2cm、肺腺癌の主病変S1bスライス位置B(以下主病変B)が3.6×2.0cmで、左S4aφ=0.8cmの肺腺癌の肺内転移が確認されています。
大学病院で抗癌剤投与とCT等の検査を行いながら新免疫療法が開始されました。
平成20年4月、抗癌剤4クールが終了時、患者様は新免疫療法を併用したことで、抗癌剤の副作用が楽だったとのことでした。
同月のCT検査では主病変Aが2.6×1.4cm、主病変Bが2.6×1.4cm、肺内転移φ=0.53cmと改善傾向を示しました。同月のエコー検査で乳癌の方はC領域に15×12×14mm大と診断されました。
この時の免疫検査の値は、IL-12が11.9pg/ml、IFNγは7.4、NKT細胞比率18.9%、活性化NKT細胞比率10.5%、NK細胞比率13.9%、活性化NKT細胞比率13.7%と初診時に比べ改善傾向を示しました。
この免疫の値から分子標的治療薬イレッサの効果が期待できることを伝えましたが、患者様は抗癌剤と新免疫療法の経過が良好なのでイレッサは使わないでこのまま経過をみたいと希望されました。
イレッサは急速に進行した時に併用する方針となりました。
その後、平成20年10月のエコー検査で乳癌は23×17×16mmと増大しましたが、流入する拍動流は確認できるがまばらと診断されました。
平成20年11月(治療開始から10か月後)のCT検査では主病変Aが2.54×1.33cm、主病変Bが2.10×1.61cm、肺内転移φ=0.8cmとなりましたが、左S4aに微小転移が新たに1か所出現したことから、進行と判断されました。
平成21年10月のエコー検査で乳癌は24×21×15mmで著変なし、流入する拍動流はまばらと診断されました。
同年11月(1年10か月後)のCT検査では主病変A、Bは大きな変化はないが、新たに、左上下葉間と右中下葉に微小転移2か所出現しました。
平成22年11月のエコー検査で乳癌は23×20×14mmで著変なし、入流する拍動流は遅くまばらと診断され、同月のCT検査(2年9か月後)では主病変A、B及び肺内転移4か所ともに大きな変化はないと診断されました。
これまでの経過で肺腺癌の方は肺内の微小転移は増えたものの主病変に大きな変化が無いこと、乳癌も平成20年10月以降大きな変化が無いことから、副作用の無い新免疫療法単独での治療に納得されているとのことでした。
平成23年8月、腫瘍マーカーCEAは5.2ng/mlと初めて基準値を超え上昇傾向が続きました。
平成23年10月のエコー検査で乳癌は28×16×16mmで著変なし、流入する拍動流は遅いものが一条確認されるのみと診断されました。
同年11月のCT検査では主病変A,Bはやや増大傾向、肺内転移4か所は変化なしと診断されました。
同年12月、CEAが8.5ng/mlと連続的に上昇したため、免疫力の増強を狙いパン酵母およびグルタチオンを増量しましたが、平成24年3月のCEAが8.9ng/mlと上昇したため、患者様と相談した結果、分子標的治療薬のイレッサを連日で開始しました。
平成24年4月のCEAの値は3.2、同年6月は3.3と基準値5.0ng/mlを下回り改善傾向を示しました。
平成24年7月、肺腺癌の経過が良好であることを辿っていること、イレッサの副作用である下痢の症状が続いていたことからイレッサを隔日投与に減量いたしました。
その結果、下痢の症状が改善し発疹も気にならなくなったとの報告を受けました。
平成26年4月(治療開始から6年2か月後)現在、図2-aに示すように、腫瘍マーカーCEAは基準値以下で維持されつづけ、肺腺癌の関しては良好な経過を辿っていると考えられます。
一方、乳癌の方ですが、平成25年1月、乳癌が増大してきたとのことで、ホルモン療法のフェマーラが追加されました。
その後、乳癌の方も改善傾向を示しましたが、同年5月に再度増大傾向を示しました。
同年7月ホルモン療法をフェアストーンに変更され、主治医と相談した結果、同年11月に乳癌を局所手術で切除されました。
新免疫療法で患者様の免疫力を向上させることでイレッサの更なる減量を目指しながら治療を行っていきたいと思います。